「“旅行しない若者“解消へ」という記事について思うこと

先日、「“旅行しない若者“解消へ」という記事を読みました。正確にはその記事の要旨とそれに対する反応をまとめた下記のShareNewsJapanの記事をFacebookで最初に読みました。

【若者の海外旅行離れ】観光庁「レジャーとして価値を見出さなくなったから」… → 見当はずれの分析に非難殺到
https://www.facebook.com/ShareNewsJapan/posts/2111972075686795
記事タイトルに「若者の海外旅行離れ」という文言が付されて「観光庁の見当はずれの分析に非難殺到」というポジションです。そこで紹介されていた反応はおおむね、旅行しないのは金や時間が無いという今も昔も変わらない理由で、特に驚くようなものではありませんでした。しかし、非難されているポイントが「観光庁の分析結果が見当外れ」というのが気になりました。特に気になったのは「抜粋」の中で書かれた文で、私にはすごく違和感を感じたのです。
抜粋をそのまま引用します。(赤字は私による)

▼抜粋

      ・観光庁は、海外旅行復活の鍵を握る”旅行しない若者”の解消に本腰を入れる
      ・有識者や旅行シンクタンク、業界団体、外務、文化科学の両省などをメンバー(一部オブザーバー)として「若者のアウトバウンド活性化に関する検討会」がこのほど、最終とりまとめを公表した
      20歳代出国者数は、463万人から282万人と20年間で約4割も減少した
      ・検討会は、若者が海外に出掛けなくなった理由を分析。「海旅をレジャーとして楽しむことに価値を見出さなくなった」「海旅が以前のような憧れの対象でなくなった」と変化を読み解いた

確かに「463万人から282万人と20年間で約4割も減少した」というのは事実かもしれませんし、これだけを見せられれば「若者の海外旅行離れ」という印象も出てくると思います。しかし、そもそも20年間で20歳代の人口がどれくらい変化したかが分からなければ「〇〇離れ」という事は言えないはずです。これが私が真っ先に感じた違和感です。この違和感をきっかけに、Facebookのコメントに以下のような20歳代の人口との比率で比較してみたコメントも投稿しました。

『20歳代出国者数は、463万人から282万人と20年間で約4割も減少した』

(追記をまとめて全面書き換え。要旨は変えてません)
1996年(平成8年)と2016年(平成28年)の20歳代の人口を、大雑把な計算になるけど2014年の年齢別人口の数字を元に出してみると18歳から27歳まで(2016年の20歳代)の人口が1,254万人、38歳から47歳まで(1996年の20歳代)の人口が1,893万人と639万人(33%)も減少しているのが分かります。
これをそれぞれの出国者数282万人(2016年)と463万人(1996年)の割合で比較すると22.4%と24.5%になります・。
つまり、『4割も減少した』というのはミスリードな書き方であって、より正確に実情を表すなら、

『20歳代の出国者数の割合は、24.5%から22.5%と20年間で2ポイント減少した』

とすべきです。
この程度の差をどう見るかですが、『463万人から282万人と20年間で約4割も減少した』理由は明らかに「若者の海外旅行離れ」ではなく、単に「若者の人口減少のため」と見るのが正しそうですね。

http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2014np/

より正確な数値を出すには1996年と2016年の年齢別人口統計からそれぞれの20歳代人口を計算しなければいけないのですが、この時は概ね傾向が分かれば良かったので2014年の人口統計からそれぞれ1996年と2016年時点の20歳代相当の年齢の人口を切り出して計算しました。

ここで分かった事は、「若者の海外旅行離れ」ではなく、単に「若者の人口減少のため」ということです。なのに『20歳代出国者数は、463万人から282万人と20年間で約4割も減少した』という文言が独り歩きしているのは一体何故なのでしょうか?
では、ソースを当たってみることにしましょう。

三次ソース:ツイッター投稿

先のShareNewsJapanの記事の中でソースとして示されているのは、以下のツイッター投稿です。
金がねえんだ馬鹿
https://twitter.com/hangao310/status/1032109260476313600

このツイッター投稿の写真からだけではどこの新聞の記事なのか分かりませんが、他のまとめサイトなどを調べてみると、交通新聞の2018年8月21日付の電子版の記事をソースにしているサイトが多いようでした。

二次ソース:交通新聞記事

〝観光庁 「若者のアウトバウンド活性化に関する最終取りまとめ」公表

2018.08.21 政府・省庁・鉄道運輸機構 予定・計画・施策
〝旅行しない若者〟解消へ 官民一体で「海外体験」推奨
観光庁は、海外旅行復活の鍵を握る〝旅行しない若者〟の解消に本腰を入れる。
全文読むにはログインしてください

残念ながら有料記事で中身を確認できませんでしたが、恐らくこれの紙媒体がソースなのだと思われます。
ともあれ、写真の記事の内容は最初のShareNewsJapanの記事の抜粋と一致していますのでここまでは情報の改変やロスは無さそうです。
では、さらにこの記事の大元のソースを探しましょう。それは観光庁のサイトにありました。

一次ソース:観光庁

若者のアウトバウンド活性化に関する検討会
「若者のアウトバウンド活性化に関する最終とりまとめ」の公表~次代を担う若者の「海外体験」のススメ~

若者旅行の振興
この中にある「PDF[報道発表資料]」というのを見てみましょう。(PDFファイル注意)

その中の4ページ(PDFの5ページ目)に探していた文言がありました。
以下引用します。(赤字は私による)

若者のアウトバウンド活性化に関する最終とりまとめ
【大幅減少が続く20代の若者の出国者数と少子化による影響】
 日本人の出国者数は、1996年に 1,699万人、2016年に 1,712万人であり、ここ 20 年ほぼ横ばいに推移している。世代別に出国者数を比較すると、 1996 年は多い順に、第1位 20代、第2位 40代、第3位 30代、第4位 50代であったが、2016 年は第1位 40代、第2位 30代、第3位 50代、第4位 20代となっており、全世代に占める 20 代のシェアが低下したことがわかる。また、20 代の若者の出国者数そのものは、1996 年の 462.9 万人から 2016 年の 281.9 万人に 39.1%もの減少が生じている。
 しかしながら、20 代の若者の出国率については、1996 年に 24.6%、2016 年に23.4%であり、微減となっている。また、毎年の旅券発行数を当該年の人口で除した旅券取得率については、20 代は2001 年に 6.8%、2016 年に 6.5%であり、大きな変化はみられない。
 これらのことから、海外に行かない傾向が 20 代の若者において突出して高いとまでは言えず、むしろ 20 代の人口そのものが、1996 年の 1,882 万人から 2016 年の 1,203 万人へと実に 36.1%も減少していることこそが、この世代の出国者数の減少の直接の原因とみなすべきである。
 このように、少子化に伴う 20 代人口の大幅な減少により、それを上回るペースでの出国者数の減少が生じており、続く 20 歳未満の人口は 1996 年から 2016 年までに 22.2%減少していることを考え合わせると、現状のまま推移すれば若い世代の出国者数はさらに減少していくことが予測される。

まさに私がFacebookのコメントで指摘した内容とほぼ同じ内容が書かれていました。私が荒い計算で出した「出国者数の割合」は「出国率」という言葉で表され、『1996 年に 24.6%、2016 年に23.4%であり、微減となっている。』という事が書かれています。私が指摘した20年間で2ポイントというのは実際にはわずか1.2ポイントの差しか無かったということです。しかも明確に『20 代の人口そのものが、1996 年の 1,882 万人から 2016 年の 1,203 万人へと実に 36.1%も減少していることこそが、この世代の出国者数の減少の直接の原因』と分析しています。
つまり、一次ソースである観光庁の最終とりまとめでは「若者の海外旅行離れ」という論調では全くなく、むしろそれを否定しているのです。
そこで述べられているのは、
 
今の若者が海外旅行に行かなくなった理由ではなく、
今の若者が海外旅行に行かない理由です。
 
そして、その理由は古今問わず金と時間の問題と、時代の違いによって変化する価値観の違いであり、他国の同世代の若者と比較して日本の若者は昔も今も海外旅行に出かける率が低いのでそこを何とか増やしていくにはどうしたらいいのか、という内容なのです。
 
私はこの報告書を全部一通り目を通しましたが良くできていると思いました。
少なくとも『観光庁の見当はずれの分析』だと非難されるような内容だとは思いませんでした。
では、一体誰が「見当はずれ」なのでしょうか?

誰が見当はずれなのか?

みなさんはもうお分かりですよね。

「20歳代出国者数は、463万人から282万人と20年間で約4割も減少した」という文言だけを切り出してきて、さも検討会が「若者が海外に出掛けなくなった理由を分析」したかのように書いたのは、交通新聞です。

この交通新聞の記事は個々の文にウソは書いていないが全体として見るとミスリーディングで極めて悪質(言葉が悪ければ低質)な記事だと言えるでしょう。これはもう一種のフェイクニュースと言ってもいいんじゃないかと思います。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です